
会社の立ち上げ時や事業拡大の局面、あるいは事業承継の準備を進める段階において、「代表取締役を2名置く体制にしたい」というご相談を受けることがあります。共同創業者と対等な立場でビジネスを進めたい、営業面と技術面で責任を分担したい、後継者に徐々に経営権を譲っていきたいなど、その理由は企業によって様々です。
法律上、株式会社に代表取締役が2人(あるいはそれ以上)存在すること自体は何ら問題ありません。しかし、現場では「意思決定のスピードが落ちないか」「意見が分かれたときに空中分解しないか」といった不安の声も多く聞かれます。
本コラムでは、神奈川県・東京都を中心に幅広い企業の法務サポートを行っているエースパートナー法律事務所の弁護士阿野順一が、複数代表制が効果的に機能するケースやメリット、そして起こりがちな実務上のトラブルを防ぐためのポイントを解説します。
複数代表制がうまく機能する3つのビジネスモデル
社長が2人いる体制は、どのような事業環境で力を発揮するのでしょうか。実際の企業運営において効果が出やすい典型的なケースをご紹介します。
1. 専門領域を完全に分担する「フロントとバック」型
ITベンチャーや建築・不動産業、飲食・介護業などでよく見られる形態です。一方が営業・資金調達・対外的なアライアンスといった「外」の業務を担当し、もう一方が開発・施工管理・現場マネジメント・労務といった「内」の業務を一手に担います。双方の専門性が明確に分かれているため、業務上の重複や縄張り争いが起きにくく、得意分野でリーダーシップを発揮しやすい構造といえます。
2. スムーズな世代交代を目指す「事業承継の過渡期」型
先代経営者から後継者へ経営のバトンを渡す際、いきなりすべての権限を移譲するのではなく、一定期間、先代と後継者の双方が代表取締役として並び立つ手法です。金融機関や主要取引先への信用をつなぎ止めつつ、後継者に契約締結や決裁の実務を経験させることができます。先代が会長、後継者が社長といった肩書で代表権を共有するケースが一般的です。
3. M&Aや事業統合後の「融和」型
2つの企業が対等合併した場合や、グループ傘下に会社を迎え入れた際に、双方の出身者を代表取締役に就任させることがあります。社内文化の衝突を和らげ、既存の従業員や取引先に安心感を与える効果が期待できます。
社長が2人いることで生じるデメリットと法的リスク
複数代表制には多くの利点がある一方で、組織運営上の脆弱性を生み出す要因にもなり得ます。特に経営陣が押さえておくべき法的・実務的リスクは以下の点です。
・各自が単独で会社を拘束できる法的な権限
会社法上、代表取締役はそれぞれが会社を代表する権限を持っています。社内ルールで「大型契約は2人の合意が必要」と決めていたとしても、一方の代表が独断で契約書に会社実印を押印してしまった場合、相手方が善意(社内ルールを知らない)であれば、その契約は会社に対して有効に成立してしまう危険性が高いといえます。
・社内の指揮命令系統の混乱
2人の代表が現場に対して相反する指示を出してしまうと、従業員は何を信じて動くべきか分からなくなります。特に人事評価や採用方針、日々のオペレーションで方針がぶれると、従業員の離職や現場の士気低下を招く要因となります。
・対立時のデッドロック(膠着状態)
株式の保有割合が50対50に近い状態で、かつ代表者同士の意見が真っ向から対立した場合、株主総会でも取締役会でも結論が出せない「デッドロック」に陥るリスクがあります。会社の重要な意思決定が完全にストップし、事業継続そのものが危機に瀕することもあります。
複数代表制のトラブルを防ぐ実践的な仕組みづくり
複数代表制を成功させるためには、事前の取り決めと社内ルールの明確化が欠かせません。トラブルを未然に防止するための具体的な対策を挙げます。
1. 定款や取締役会規程による「決裁権限」の明文化
どの業務をどちらの代表が所管するのか、どのような契約や支出について事前協議や取締役会の承認を要するのかを規程として明文化します。対外的な効力には限界があるものの、社内規律を保ち、越権行為があった際の責任の所在をはっきりさせるために極めて重要です。
2. 会社実印および銀行印の管理方法の厳格化
トラブルの多くは「印鑑」と「資金移動」をめぐって発生します。代表印の保管場所や押印手続きについて管理責任者を定め、一定額以上の送金には双方の確認が必要となるワークフローを導入するなど、物理的・システム的な相互チェックを機能させることが実効性のある防止策となります。
3. 意見が対立した際の「最終決定権」の合意
万が一、事業方針や人事などで意見が割れた際、最終的にどちらの判断を優先するのか、あるいは第三者(顧問弁護士、公認会計士、社外取締役など)を交えてどのように決定するのかを、関係が良好な段階で合意書や株主間契約として残しておくことが推奨されます。
複数代表制に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 銀行の融資を受ける際、代表取締役が2人いると連帯保証はどうなりますか?
A. 金融機関の判断によりますが、実質的に経営を支配している代表者のみが保証人になる場合もあれば、代表権を持つ2名双方に個人連帯保証を求められるケースも少なくありません。事業承継の局面などでは、先代の保証を外し後継者へ一本化するための交渉が必要になることもあります。
Q2. 2人の代表取締役の「肩書」はどう分けるべきですか?
A. 登記上はいずれも「代表取締役」となりますが、対外的な呼称(社内肩書)は自由に決めることができます。代表取締役会長と代表取締役社長、あるいは共同代表(Co-CEO)やCEOとCOOといった形で、それぞれの担当職務が外部にもわかりやすい肩書を用いるのが一般的です。
Q3. 仲違いしてしまった場合、一方の代表取締役を辞めさせることはできますか?
A. 代表取締役の解職(代表権の剥奪)は取締役会の決議で、取締役自体の解任は株主総会の決議で行うことができます。ただし、解任を成立させるには過半数(または定款で定めた割合)の議決権が必要となります。正当な理由なく任期途中で解任した場合には、損害賠償請求の対象となる可能性もあるため、慎重な法的手続きが求められます。
まとめ:組織の成長に合わせた体制設計を
代表取締役を複数置く体制は、経営資源の補完やスムーズな事業承継において非常に有効な選択肢です。一方で、権限の所在が曖昧なまま運用を続けると、対立が生じた際に会社全体を巻き込む深刻な紛争に発展するリスクを孕んでいます。
複数代表制を導入する際は、業務分担のルール化、印鑑や決裁フローの管理、そして万が一の対立を見据えた契約関係の整備など、事前の制度設計を丁寧に行うことが大切です。また、会社の成長フェーズや環境の変化に応じて、随時体制を見直していく柔軟な姿勢も求められます。
自社に適した役員体制の構築や、社内規程の整備、将来の紛争予防について疑問や懸念がある場合は、企業法務の知見を持つ専門家へ早めに相談することをおすすめいたします。
弁護士法人エースパートナー法律事務所は、川崎・横浜の法律事務所として、神奈川県・東京都の企業様の法律顧問(顧問弁護士)を務めています。不動産・建設、飲食、IT・AI、保育・介護など業種ごとの法務に精通した弁護士が、契約書チェックからトラブル対応まで幅広くサポートします。川崎・横浜・東京で顧問弁護士・法律事務所をお探しの経営者様は、どうぞお気軽にご相談ください。
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