事件発生から判決確定までの流れ~刑事事件の基本と手続きの全体像を解説~
窃盗や暴行などの犯罪行為、人身事故が起こったときなども、刑事事件として手続が進行していくことがあります。事件の性質によっては逮捕され、生活が制限されてしまうこともあるでしょう。
刑事事件に巻き込まれること自体緊急事態であり、「これからどうなってしまうのか」「いつまで拘束が続くのだろうか」など不安を感じることもたくさんあるかと思いますが、刑事事件の全体像を掴んでおけばこのような不安も少しは払拭できると思います。
そこで当記事では事件の発生から判決の確定にいたるまで、手続きがどのように進行していくのか、など刑事事件の基本について解説していきます。
全体の流れと刑事事件の基本
ごく簡単に流れを整理すると、以下のとおりになります。。
- 1. 事件の発生・捜査
- 2. 被疑者の逮捕・勾留(弁護士による接見)
- 3. 検察官による起訴・不起訴の処分
- 4. 公判での審理
- 5. 判決の確定、刑罰の適用
また、手続き全体を通して、刑事事件では「無罪推定の原則」が適用されます。簡単に説明すると、、被疑者や被告人としての立場であったとしても、有罪判決が確定するまでは、被疑者・被告人は無罪であることを考慮して取り扱うことを求める原則になります。推定無罪の原則が適用される以上、不要な身体拘束をしてはいけませんし、身体拘束をした場合でも被疑者・被告人の権利保護には十分に配慮されなければなりません。
刑事事件は、犯罪の成否や刑罰の内容を確定するものであるうえ、身体拘束という、高度な権利の制約が生じるため、厳格な手続きに従って進行するのが大きな特徴です。手続の各段階で被疑者・被告人の権利が保障されると同時に、真相の解明と適正な処罰が目指されます。
事件の発生~捜査
暴行や傷害、窃盗、殺人、脅迫、その他さまざまな行為が犯罪行為として定義されています。これら犯罪行為に該当し得る行為があって、その事実を捜査機関(警察や検察)が認識したときから捜査が始まります(捜査機関が特定の犯罪行為の存在に関する嫌疑を抱くきっかけを、「捜査の端緒」といいます。)。
捜査の端緒というのは様々な態様があり、被害者からの被害届を受けて捜査が始まることもあれば、目撃者からの110番通報がきっかけとなることもあります。また、警察官による職務質問中の犯罪発見などもあります。
捜査の端緒の態様は様々ですが、捜査機関が事件について認知したあと、警察が犯罪の嫌疑があると認めると捜査を開始します。検察官も自ら捜査を行う権限を持ちますが、実際には警察が捜査の主体となり、検察官はその警察を指揮監督するというケースが圧倒的多数です。。
捜査の方法
捜査機関による捜査には、さまざまな手法が用いられます。
例えば、犯人が現場に残した指紋や足跡を採取する現場検証、関係者から話を聞く事情聴取、被疑者を直接尋問する取調べなどです。近年ではDNA鑑定や画像解析などの捜査も重要な役割を担っており、様々な捜査手法が登場しています。
また、犯罪の性質や捜査の必要性に応じて、裁判官の発する令状に基づき、被疑者を逮捕したり(これを通常逮捕といいます。)、被疑者の自宅等の捜索・差押え(証拠物の押収)などの強制処分を行うこともあります。
※現行犯逮捕の場合、逮捕する者(警察はもちろん、一般人も含まれます。)にとって、犯行と犯人を確知しておりますので(これを「現認」といいます。)、令状は不要とされています。
ただし、これらの捜査は、捜査される側の人権を誓約する性質を有するため、いずれも適正に行われなければなりません。被疑者の人権を侵害してはならず、正当な理由なく長時間拘束したり自白を強要したりすることは違法な捜査となります。捜査が違法と判断された場合、違法な捜査で取得された証拠は、刑事裁判で提出してはいけないとされております(これを、「違法収集証拠の排除法則」といいます。)
もし捜査を受けることがあり、「このやり方は違法ではないか」と思われるときは弁護士に相談しましょう。
捜査の終了と送致
捜査が終わると、警察は捜査の結果をまとめた書類を作成し、検察官に捜査資料を「送致」します(ニュース等で度々出てくる「書類送検」という言葉がありますが、刑事訴訟法上は「送致」という言葉を用います。)。検察官はこれを受け、被疑者を起訴するかどうかの検討を始めます。
逮捕による身体拘束を受けるケースもある
刑事事件と聞くと「逮捕される」というイメージを持つ方も多いと思います。しかし現実には逮捕や勾留などによる身体拘束を受けるケースはそう多くありません。
罪を犯した疑いが強い場合でも、それだけを理由として逮捕・勾留が認められるわけではなく、証拠隠滅のおそれがある場合や逃走を図る可能性があるなど、拘束をする前向きな理由がある場合に限って認められるのです。
そこで(現行犯逮捕は例外的に行われるものの)、逮捕・勾留については警察だけで判断することができず、裁判官が公平な立場で判断を下し、令状を出してからの実行となります(これを、「令状審査」といいます。)。
なお、逮捕してからの身体拘束期間は、合計して72時間と短期で定められており、逮捕に引き続いて、被疑者を拘束しておく必要がある場合にのみ勾留手続が行われます(逮捕するときと同様、勾留をするかどうか、及び勾留する期間については、裁判官が審査をします。)。そして勾留が認められると10日間ないし20日間ほど身柄の拘束が続く可能性があります。
検察官による起訴
警察からの送致を受けた検察官は、必要に応じて自らも事件を捜査します。そして、警察官が集めた証拠、及び、検察官が捜査して得られた証拠に基づき、被疑者を刑事裁判にかけるかどうかの判断を下します。この処分を「起訴」といい、逆に起訴しない場合は「不起訴」と呼ばれます。
なお、起訴・不起訴の処分については裁判官の判断が介在せず、検察官のみの権限で起訴・不起訴を判断することができます。
起訴・不起訴の判断基準
検察官が起訴・不起訴を決定する際には、主に以下の3つの要素を総合的に判断します。
証拠が十分か | 被疑者が罪を犯したという疑いを裏付けるに足りる証拠が十分に集まっているかどうか重視される。 特に日本では、裁判で有罪判決を得られる見込みが高い場合に起訴される傾向にあるため、起訴後の有罪率は極めて高くなっている。 |
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起訴の必要性 | 証拠が十分に揃っていたとしても、必ずしも起訴されるとは限らない。被疑者の年齢や犯罪の動機、境遇、犯罪結果の大きさ、被疑者の反省の態度、更生の可能性など、さまざまな要素を考慮して不起訴となることもある。 |
被害者との示談 | 比較的軽微な犯罪であるほど、被害者との示談が成立しているかどうかが起訴・不起訴の判断に大きく影響する。 これは、被害者との示談が成立していると、被害者の被害回復がされ、被害者との間では和解していると評価できるため。 ただし刑事事件は民事とは異なり私人間のトラブル解決を目的としていないため、犯罪事実の重大性等を考慮して、示談があっても起訴される可能性は十分に考えられる。 |
公判請求と略式命令請求
検察官が行う起訴処分には、原則的な「公判請求」のほか「略式命令請求」というものもあります。
この略式命令請求は、正式な刑事裁判によらず簡易迅速な方法で判決を求める手続きをいいます。
ただ、略式命令による裁判が認められるには、事案が明白であって、簡易裁判所の管轄に属する「100万円以下の罰金・科料に相当する事件」であること、そして被疑者の異議がないことといった条件を満たす必要があります。
なお、簡易裁判所から略式命令が発せられた後でも被告人は不服を主張して正式裁判を申し立てることが可能です。
※ただし略式命令を受けてから14日以内に限る。
公判
検察官によって起訴された事件は、裁判所において公判手続に付されます。公判とは公開の法廷で行われる裁判のことで、法令に従い厳格に審理が進められます。
審理の流れ
刑事裁判における審理では次のことが行われます。
- 冒頭手続
・人定質問(裁判官が人間違いを防ぐため、被告人の身元を確認する手続)
・起訴状朗読(検察官が起訴状を読み上げて審理の対象である被疑事実を明確にする)
・黙秘権の告知(裁判の公正さを確保するため裁判官が被告人に黙秘権について説明する)
・罪状認否(起訴状の内容に間違いがないかを質問し被告人らに陳述の機会を与える)
- 証拠調べ
・検察側による冒頭陳述(証拠によって証明しようとする事実を読み上げる)
・証拠書類の読み上げ
・証拠物の取り調べ
・証人尋問
- 検察側の論告・求刑(証拠調べで明らかになった事実をまとめ、被告人の処罰と量刑についての最終的な意見を述べる)
- 弁護側の弁論(証拠調べの結果を踏まえ、被告人の処罰や量刑について最終的な意見を述べる)
- 被告人の意見陳述(最後に、被告人に事件に関する意見を述べる機会が与えられる)
- 死刑・・・最も重い刑罰。絞首刑によって執行される。
- 懲役・・・刑務所に収容され刑務作業が義務付けられる。
- 禁錮・・・刑務所に拘置されるが刑務作業の義務はない。
- 拘留・・・1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置される。
- 罰金・・・1万円以上で定められる金額を国に納付する。
- 科料・・・1,000円以上1万円未満で定められる金額を国に納付する。
- 没収・・・犯罪に関係する物や、犯罪行為によって得られた収益等を強制的に取り上げる。他の刑とともに科される。
なお、審理の期間は事件の複雑性や認否によっても大きく異なります。
判決
公判手続を経て、裁判官が有罪かどうかの判断をし、判決を言い渡します。
有罪判決にも「実刑判決(判決確定後、直ちに刑罰が実際に執行される判決)」と「執行猶予付き判決(判決内容が確定しても、刑罰の執行については一定の猶予が与えられる判決)」がありますので、懲役刑が法定されている罪であっても、有罪判決されたからといって、すぐに刑務所への収容が確定するわけではありません。
また無罪判決となったときは当然刑事責任を問われることはなく、勾留をされていた方に関しては原則として即座に身柄が解放されます。
上訴(控訴・上告)について
判決に不服がある場合、被告人または検察官は、上級裁判所に対して判決内容を見直すように求めることができます。これを「上訴」といいます。
日本では三審制を採用していますので、第一審の判決に不服がある場合は第二審への上訴にあたる「控訴」をまずは行い、さらに不服があるときは最高裁判所に対する上訴にあたる「上告」を行うことになります。
※控訴は高等裁判所に対して行う。申し立て可能な期間は判決を言い渡されてから14日以内。
※上告は、判決の内容が過去の最高裁の判断(これを「判例」といいます。)に反している場合や、憲法に反している場合、法律の解釈に誤りがある場合などに限って行うことができ、事実認定に関しての不服を理由とすることはできない。
再審について
上訴の仕組みとは別に「再審」という仕組みもあります。
これは、有罪が確定した判決に対して行う救済手続であり、事実認定の誤りを是正するために行われます。
裁判のやり直しを求めることになりますので、重要な証拠が新たに見つかった場合など、申立てそのものが認められるためのハードルも高く設定されています。
刑罰の適用
判決が確定すると、有罪判決を受けた被告人に対し、判決で言い渡された刑罰が執行されます。
刑罰の種類
日本の法律では、次のように刑罰の種類が定められています。
これらの刑罰は、単独で科されることもあれば、併科されることもあります。
執行猶予について
刑事裁判で有罪判決を受けた被告人に対して、一定期間刑の執行を猶予する「執行猶予」の制度があります。
有罪判決において執行猶予が言い渡されると、懲役刑を科されてはいるものの、判決確定後即座に刑務所に収容されることはなく、これまでの社会生活を続けることができます。ただし猶予期間中に新たな罪を犯すなど一定の違反行為があると、執行猶予は剥奪され、新たな犯罪の刑罰に加えて、猶予されていた刑が執行されることもありますし、犯罪の態様、前科の有無などによっては執行猶予が付かないこともあります。
執行猶予や刑罰の適用、それ以前の審理や捜査に対して不満がある方、あるいは捜査の対象となっていることに対して大きな不安を感じている方などはお早めに弁護士にご相談ください。
専門的な知識や経験なくご自身だけで対処していくのは難しいですし、特に身柄が拘束されていると証拠を集めに取り組むのも困難です。そのため弁護活動はプロに任せることをおすすめします。
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