雇用契約書とは?記載事項や作成の注意点、労働条件通知書との違いを解説
当記事では「雇用契約書」について詳しく解説しています。どのような事項を記載する必要があるのか、どのような点に注意しないといけないか、そして「労働条件通知書」とは何が違うのかをそれぞれ説明していきます。
雇用契約書とは
雇用契約書と労働条件通知書は、労働条件を明示するという点で似ていますが、いくつかの重要な違いがあります。
まず「雇用契約書」についてですが、こちらは企業(雇用主)と労働者の間で雇用契約が締結されたことを証明する契約書のことです。雇用に関しては各種労働法で細かい規定が置かれていますが、その大元となる契約の定義は民法に次のように置かれています。
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
引用:e-Gov法令検索 民法第623条
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
主な特徴としては以下の点を挙げることができます。
- 民法第623条に基づいて作成する。
- 一般的には雇用期間・業務内容・就業時間などの労働条件が記載される。
- 企業と労働者の双方が署名捺印または記名押印して締結する。
- 法的な作成義務はない。
労働条件通知書との違い
一方の「労働条件通知書」は、企業が労働者に対して法律で定められた一定の労働条件を明示するために交付する書類のことです。
労働基準法では最低限守るべき労働条件などが定められており、同法にて次のように“雇用契約を交わすときは労働条件を明示しないといけない”と定めてあります。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用:e-Gov法令検索 労働基準法第15条第1項
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
主な特徴としては以下の点を挙げることができます。
- 労働基準法第15条に基づいて作成される。
- 賃金や労働時間、その他の労働条件が記載される。
- 企業から労働者へ一方的に交付される文書。
- 交付が義務付けられている(労働基準法施行規則第5条第4項)。
一番の違いはやはり「作成・交付の義務が雇用契約書にはない」という点です。従業員を雇う企業は、雇用契約書を作成していなくても違法ではありませんが、労働条件通知書については常に作成していなければ違法となります。
また、「一方的に交付する労働条件通知書とは違い、雇用契約書は双方の署名・押印を通常要する契約行為に基づいて作成するもの」とも説明できます。
似た性質を持つものの、その名のとおり“契約書”と“通知書”では作成プロセスが異なります。
もう1点、「記載しないといけない事項が決められている労働条件通知書とは異なり、雇用契約書への記載事項は決まっていない」という違いも挙げられます。
そもそも作成自体が義務ではありませんし、雇用契約書については何をどのように記載しないといけないのかという点についても規制がありません。
※「どのような契約内容でもかまわない」という意味ではなく、労働基準法に反する労働条件が雇用契約書に記載してあっても無効になります。また後述のとおり無用な法律トラブルを避けるためにも雇用契約書につきましても作成することが望ましいです。
雇用契約書や労働条件通知書の実務上の取り扱い
各文書に関係するルールや原則は以上で説明したとおりですが、実際のところは多くの企業で「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という形で文書が作成されています。
共通する記載事項も多いため、あえて別の文書として作成する必要性もなく、手間を省くためにも兼用の文書が作られているのです。
法的にも契約書としての体裁を持つ労働条件通知書を作成しても問題はありません。
ただし、この場合は①労働条件通知書に記載すべき項目を網羅すること、そして②交付方法については労働条件通知書に適用されるルールに従わないといけないこと、の2点には配慮する必要があります。
たとえば、雇用契約書の交付方法は自由でありメールなどで送信をしても問題はありません。しかしながら、労働条件通知書に関しては書面(紙の文書)交付が原則とされており、電磁的方法による場合は労働者側の希望がなければいけません。
よって、記載事項に問題がなくても、勝手にメール等に添付して電磁的方法でこれを交付したのでは違法となってしまいます。
※雇用契約書としては有効。
雇用契約書への記載事項
雇用契約は口約束でも成立しますが、どのようなルールを定めたのか記録を残しておかなければ「言った・言っていない」で揉める危険性があります。
その観点から契約書の作成が重要であると考えられており、一般的には次の事項について明記しておくことが望ましいと考えられます。
-
基本情報
- 契約当事者(企業名と労働者名)
- 契約締結日
-
契約期間
- 期間の定めの有無
- 有期雇用の場合は更新の有無
-
就業場所
- 具体的な勤務地(本社、支社、事業所名など)
- 転勤の可能性がある場合はその範囲
-
業務内容
- 従事する具体的な業務
- 職種変更の可能性
-
就業時間
- 始業・終業時刻
- 所定労働時間
- 休憩時間
- 所定労働時間を超える労働の有無
-
休日休暇
- 法定休日や年次有給休暇、その他の休暇制度
-
賃金
- 基本給の金額や計算方法
- 各種手当の種類と金額
- 締切日、支払日、支払方法
- 賞与・退職金の支給の有無
-
その他の事項
- 試用期間の有無とその期間中の労働条件
- 福利厚生、社会保険の加入状況
- 守秘義務に関する事項
- 副業・兼業に関する事項
ただ、就業規則や労働条件通知書など別紙に詳細を渡すことも可能ですので、雇用契約書にすべてのルールが記載されてある必要はありません。以下でも、雇用契約書に一般的に記載されることの多い事柄に絞って紹介していきます。
表題と前文
雇用契約書の表題および前文は、契約の性質と当事者を明確に示す重要な部分です。一般的に、甲を雇用主(会社)、乙を労働者として定め、次のように記載します。
---------------------------------------------------------------------
雇用契約書
○○株式会社(以下「甲」という)と△△△△(以下「乙」という)は、以下のとおり雇用契約を締結する。
---------------------------------------------------------------------
表題はこのようにシンプルでかまいません。前文についても雇用契約を締結する旨を明確に示しましょう。表題と前文で契約の性質を明示することで、文書の目的が明確になります。
基本的な労働条件の記載
基本的な労働条件を次のように記載していきます。ただし、詳細な条件については就業規則や労働条件通知書に委ねることも可能です。
---------------------------------------------------------------------
第○条(就業場所・業務内容)
乙の就業場所は○○支店とし、主な業務内容は△△業務とする。
第○条(労働時間・休日)
乙の労働時間、休憩及び休日については、甲の就業規則の定めるところによる。
第○条(賃金)
乙の賃金は、基本給月額○○○,○○○円とし、その他の賃金の細目については甲の給与規程による。
---------------------------------------------------------------------
そのほか明示しておきたい情報があれば記載しておきましょう。
状況に応じて記載しておきたい労働条件
業務の性質や会社の方針に応じて、強調しておきたい労働条件についても記載しておくと良いでしょう。
たとえば情報漏洩に特に配慮する必要があるのなら「機密保持」の条項を、一定期間様子をみたいのなら「試用期間」の条項を、当該企業での職務に専念して欲しいのなら「副業・兼業」の条項を置くと良いです。
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第○条(機密保持)
乙は、在職中及び退職後においても、業務上知り得た甲の機密情報を第三者に漏洩してはならない。
第○条(試用期間)
乙の試用期間は、入社日から3ヶ月間とする。
第○条(配置転換・職務内容の変更)
甲は、業務上の必要がある場合、乙の就業場所及び従事する業務の内容を変更することがある。
第○条(副業・兼業)
乙が副業・兼業を行う場合は、事前に甲の承認を得なければならない。
第○条(誠実義務)
乙は、甲の諸規則を遵守し、誠実に職務を遂行しなければならない。
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後文(契約締結日・当事者の特定)
契約書の後文では、一般的に次のような文言・情報が記載されます。
---------------------------------------------------------------------
本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
○○年○○月○○日
甲 住所:東京都○○区○○町○-○-○
会社名:○○株式会社
代表者:代表取締役 ○○ ○○ 印
乙 住所:東京都△△区△△町○-○-○
氏名:△△ △△ 印
---------------------------------------------------------------------
契約締結日を明記し、当事者を特定します。通常は、記載にあるとおり契約書は2通作成して双方が1通ずつを保管します。
労働条件通知書を兼用する場合の作成方法
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として作成される場合、必ず、以下の要素を含めていなければなりません。
契約期間 | 雇用契約の開始日と終了日(期間の定めがない場合はその旨)を明記 |
---|---|
就業場所と業務内容 |
・勤務地と具体的な業務内容を明示 ・異動や配置転換の可能性がある場合はその旨と範囲を明示 |
労働時間 |
・始業終業時刻や休憩時間 ・所定労働時間を超える労働の有無 ・休日、休暇 |
賃金 |
・賃金の決定方法や計算方法 ・支払方法 ・締切日や支払日 ・昇給 |
退職に関する事項 | 退職手続きや解雇事由を具体的に記載 |
また、有期雇用の場合には「契約更新の可能性の有無と更新の基準」や「更新回数の上限の有無」、「無期転換の申込み権利とその時期」、「無期転換後の労働条件」などの記載も満たすべき条件となります。その他会社の実情によって記載すべき事項が増える場合がありますので、作成した労働条件通知書 兼 雇用契約書に問題がないかご不安でしたら弁護士までご相談ください。
契約書を作成するときの注意点
雇用契約書は当事者間で作成するものですが、実務上、使用者である企業が作成して労働者がこれにサインをする流れで契約を締結することが多いです。
契約書作成にあたっては、双方の立場から以下の点に注意が必要といえます。
企業側の注意点
契約書の内容が労働関係法令に準拠し、自社の就業規則と整合が取れていることを確認。業界標準や他社の事例も参考にしつつ、自社の実情に合わせた内容に調整していくことが重要。労働条件は明確かつ具体的に記載し、曖昧な表現を避けて解釈の余地を最小限にすべき。なお、電子契約サービスを利用することで契約締結プロセスの効率化と管理の簡素化が実現できるが、電子署名法に準拠した方法で行うこと。
労働者側の注意点
契約書の内容を慎重に確認し、不明な点や疑問点があれば必ず質問しておく。特に給与、労働時間、休日、福利厚生などの基本的な労働条件については詳細に確認すべき。また、秘密保持義務や競業避止義務などの特殊な条項については、その範囲と期間が合理的かどうかを吟味する必要がある。将来的な異動や職務内容の変更可能性についても確認し、自身のキャリアプランと整合性があるかを検討する。そして、作成した契約書はコピーを取り、安全に保管しておく。
両者とも、雇用契約書が労使関係の基礎となる重要な文書であることを認識し、互いの権利と義務を明確に理解したうえで契約書のやり取りを行うようにしましょう。
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