刑事事件における留置と勾留の違いをわかりやすく解説
逮捕された被疑者は身柄を拘束されることになりますが、身体拘束に対しては法律上厳格なルールが定められています。逮捕後の「留置」と、その後引き続き被疑者・被告人を拘束する「勾留」も、それぞれに適用されるルールは違います。
これらの制度を正しく理解することは、ご自身や身近な人が刑事事件に巻き込まれた際の対応を考えるうえでとても重要な知識となるでしょう。当記事では留置と勾留について言及し、要件や期間のことなど、違いをわかりやすく解説していきます。
留置と勾留の違いを比較
留置と勾留の大きな違いについて、簡単に表にまとめました。
比較項目 | 留置 | 勾留 |
---|---|---|
定義 | 逮捕後、被疑者を一時的に警察署内の施設に収容すること | 被疑者または被告人を拘束するための司法的措置 |
目的 | 逃亡や証拠隠滅の防止、取り調べの実施 | 逃亡や証拠隠滅の防止、捜査や公判の円滑な進行の確保 |
期間 | 逮捕から最大72時間 |
原則10日間(最大20日間まで延長可能) ※被告人勾留の場合は原則2ヶ月(延長の可能性あり)。 |
主な収容場所 | 警察署内の留置施設(留置場) | 拘置所または警察署の留置施設を代用 |
接見交通権 | 弁護人との接見のみ可能 |
弁護人以外との接見も可能 ※接見禁止命令がある場合は別 |
保釈の可能性 | なし | 被告人勾留の場合は可能 |
留置は逮捕直後の短期間の身体拘束のことを指し、主に警察が主導します。一方の勾留は裁判所の判断による長期間の身体拘束です。時期やきっかけは異なりますが、いずれの場合も法律に則り運用されるため捜査機関側も厳格なルールに従わなければなりません。
留置とは何か
留置からより詳しく見ていきましょう。
留置とは、罪を犯した疑いのある「被疑者」を一時的に拘束するための刑事手続き上の措置のことです。捜査機関である警察に現行犯逮捕あるいは通常逮捕(令状が発布された後に行われる原則的逮捕のこと)をされたあと、警察署内に設置された留置施設(留置場)にて身体拘束を受けます。
これは戒めのために行われるのではありません。そもそも逮捕状が出されていたとしてもその時点では無罪推定がはたらき、罪を犯した者として扱うことは認められません。
ただし、罪を犯した者であった場合は、逃亡したり証拠隠滅をしたりする可能性も否めません。そこで身体拘束をする必要性があると認められる場合に限り、逮捕・留置することが認められているのです。
たとえば、次のような形で留置は実施されます。
留置が行われる例 | |
---|---|
現行犯逮捕からの留置 |
スーパーで万引きをしている現場を店員が発見。警察に通報し、駆けつけた警察官がその場で被疑者を逮捕した。 ・・・現行犯逮捕された後、被疑者は直ちに警察署の留置場に収容される。この場合、犯行の詳細やほかの犯罪歴の有無などを確認するための取り調べが行われる。 |
通常逮捕からの留置 |
連続窃盗事件を警察が捜査し、防犯カメラの映像や指紋などの証拠から被疑者を特定。裁判官から逮捕状が発付されたのち、警察が被疑者の自宅を訪れ、逮捕状を示して逮捕した。 ・・・逮捕後、被疑者は警察署の留置場に収容される。この場合はすでにある程度の証拠が集められており、警察は被疑者の供述を得たり追加の証拠を収集したりする。 |
緊急逮捕からの留置 |
強盗などの凶悪事件の発生後、目撃者の証言から被疑者の特徴が判明。パトロール中の警察官がその特徴に合致する人物を発見し、逃走の恐れがあると判断して緊急逮捕した。 ・・・逮捕後、被疑者は留置場に収容され、警察は速やかに裁判官に逮捕状を請求する。 |
再逮捕からの留置 |
窃盗事件で留置中・勾留中の被疑者について別の強盗事件への関与が明らかになった。これを受け検察官が新たな容疑で逮捕状を請求し、再逮捕した。 ・・・再逮捕後、被疑者は新たな容疑について取り調べを受けるため、留置が継続される。 |
留置はいつまで続く?
留置期間は法律で厳しく制限されており、逮捕直後から勾留に切り替わるまでの留置期間は次の流れに従い、最大で3日間(72時間)とされています。
-
1. 逮捕直後
- 警察署内の留置場に連行される。
-
2. 警察による留置(最大48時間)
- この間に警察は取り調べや実況見分等の証拠収集を行う。
- 継続的に留置を行う必要があるのか、逮捕から48時間以内に判断しなければならない。
- 留置の必要がないと判断されれば即座に釈放。
- 留置の必要があると判断されれば検察官へ送致。
-
3. 検察官による判断(最大24時間)
- 送致を受けた検察官は24時間以内に今後の方針を判断しなければならない。
- 引き続き身体拘束をする必要があるなら裁判官に対し「勾留」の請求を行う。
- 引き続き身体拘束をする必要がないのなら即座に釈放。
留置期間中、合計72時間の間は外部との連絡を取ることが困難となります。ただし、弁護人との接見は可能ですので、できるだけ早い段階で弁護士を呼んで今後の対応を考えていくことが重要といえます。
勾留とは何か
次は勾留について詳しく見ていきましょう。
勾留とは、「被疑者」または起訴処分を受けた「被告人」を一定期間拘束する司法手続きのことです。
たとえば、次のような形で勾留は実施されます。
勾留が行われる例 | |
---|---|
逃亡の可能性が高い被疑者の勾留 | 高額な宝石を窃取した容疑で現行犯逮捕。被疑者には定まった住居がなく、外国へのチケットも所持していた。逃亡のおそれが高く引き続き身体拘束が必要と判断されたため、最大20日間の勾留が認められた。 |
証拠隠滅の可能性が高い被疑者の勾留 | 会社の金庫から多額の現金が盗まれ、内部犯行の疑いで経理担当者が逮捕された。被疑者は会社の帳簿を改ざんした疑いもあり、まだ発見されていない証拠を隠滅したり、共犯者と口裏合わせをしたりする可能性が高い。捜査のため、引き続き身体拘束が必要と判断され勾留が認められた。 |
証拠隠滅の可能性が高い被告人の勾留 | 組織的な詐欺グループの一員として起訴された被告人。ほかの共犯者がまだ逮捕されておらず、被告人が彼らと接触して証拠隠滅や口裏合わせを行う可能性が高いため、引き続き身体拘束が必要と判断された。 |
一方で、現行犯逮捕をされた場合であっても勾留の請求が行われずそのまま釈放されるケースもあります。たとえば過失による交通事故で現行犯逮捕された場合であって、被疑者には定職と固定住所もあり、逃亡・証拠隠滅のおそれも低いと判断されれば身体拘束の必要はありません。
なお、留置や勾留をされなかったとしてもその時点で無罪が確定するわけではありません。身体拘束を受けないだけであって、引き続き捜査は行われ刑事裁判にかけられることもあります。
勾留の要件
勾留が認められるためには、次の要件を満たさなければなりません。
① 犯罪の嫌疑があること
・・・罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること。
② 勾留の理由があること
・・・具体的な事実に基づき以下いずれかに該当すること。
(ア) 定まった住居がない
(イ) 罪証隠滅のおそれがある
(ウ) 逃亡のおそれがある
③ 勾留の必要性があること
・・・勾留によってもたらされる被疑者、被告人の不利益を加味し、なお勾留を行う必要があると認められること。たとえば軽微な事件であるにもかかわらず、長期間拘束することで被疑者が職を失ってしまう可能性が高いなど勾留による不利益が大きな場合は勾留の必要性が否定される可能性がある。
勾留はいつまで続く?
勾留の期間は、被疑者の段階と被告人の段階で異なります。
被疑者勾留(起訴前) | 被告人勾留(起訴後) |
---|---|
・原則として10日間 ・検察官からの請求を受け、裁判官が「やむを得ない事由」を認めた場合、最大10日間の延長が可能 ・通常は最大20日間の勾留となるが、特定の重大犯罪(内乱罪等)の場合のみさらに5日間の再延長が可能 |
・通常、最初の勾留期間は2ヶ月 ・その後、1ヶ月ごとに更新可能 ・更新回数に制限はなく、裁判終了まで継続して数年に及ぶ可能性もある |
保釈制度について
刑事事件における身体拘束に関連して、「保釈」という制度もあります。これは起訴後の勾留期間のみに利用できる制度で、保釈金を納めることで一時的に釈放してもらうことが認められます。
保釈に関わる重要なポイントは次のとおりです。
起訴後のみ適用可能 | 保釈は起訴後にのみ認められ、留置されている期間、起訴前勾留の段階では認められない。 |
---|---|
釈放してもらうには請求が必要 | 被告人自身や弁護人、そのほか配偶者や直系親族なども保釈の請求ができる。 |
保釈金の納付が必須 |
裁判所が定めた保釈金を納めないといけない。 一般的には200〜300万円程度が相場とされているが、被告人の経済力など諸般の事情に照らし設定されるため、具体的な金額は事案によって大きく異なる。 |
認められないことがある |
一定の重大犯罪の容疑で起訴されている場合や、証拠隠滅を図る疑いがある場合、そのほか被害者や告訴人などに対する加害のおそれがある場合などにも保釈は認められない。 保釈金の支払いはあくまで一条件であり、支払えば必ず釈放されるものではない。 |
保釈が取り消されることがある | 保釈後に証拠隠滅のおそれが生じた場合や、実刑判決が出て懲役刑が確定した場合などにもその効力は失われる。 |
不当な留置・勾留は弁護士に相談
不当な留置や勾留に直面したときは弁護士に相談しましょう。正当な処分なのか、不当なのか、その判断も難しいかもしれませんが、少しでも不安があるのなら早めに弁護士を呼ぶことが重要です。
上述のとおり、逮捕後は捜査機関側にも時間制限がありますので状況は目まぐるしく変化していきます。勾留請求が認められると最大20日間と長い期間拘束され続けてしまいますし、起訴後も勾留が続き釈放時期の目途が立たなくなってしまう場合があります。
拘束中はご自身でできる活動にも限界がありますので、不当な拘束を解くため・できるだけ早いうちに釈放してもらうためにも弁護士を活用しましょう。弁護士は早期釈放に向けてどのように対応すべきかのアドバイスができますし、勾留の取り消しに向けての請求や保釈の請求など、法的に認められている手段・制度を適切に行使することができます。
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