刑事事件の種類~増加傾向にある犯罪についても解説~
法律によりさまざまな罪が定義されており、刑事手続きについても厳格に取り決められています。ここではどのような種類の犯罪があるのか基本的な分類について解説するとともに、近年の事情や注視されている犯罪についても紹介していきます。
「刑事事件」「犯罪」など、聞いたことはあるもののよくわかっていない、という方はぜひ参考にしてください。
刑事事件とは
「刑事事件」とは、刑法などの法律で定められた犯罪行為に対して、国家機関が捜査や起訴を行い、裁判を通じて刑罰を科す手続き全体を指しています。
犯罪とは窃盗や暴行、詐欺、殺人など、法律で罪として定められている行為を意味し、刑罰とはこの犯罪行為をはたらいた者に科されるペナルティのことです。例えば懲役刑、罰金刑、禁錮刑などがあります。
刑事事件以外の、私人間における権利や義務関係の手続きは「民事事件」といいます。
刑事事件では加害者と被害者が私人であるケースも多いですが、手続きそのものは国家(検察)と被疑者・被告人が対立する構図となり、私人同士の対立構図となる民事事件とはこの点で違いがあるといえるでしょう。
刑事事件の種類
刑事事件の分類では、よく①刑法犯と②特別法犯で区別されることがあります。
各種基本的な罪について規定しているのが「刑法」という法律で、同法に規定された罪を犯したケースが①に該当します。そして刑法以外の法律、例えば道路交通法や迷惑条例防止法、銃刀法、覚醒剤取締法、大麻取締法などで規定された罪を犯したケースが②に該当します。
捜査機関で確認された犯罪の割合でいうと、刑法犯が51.0%と過半数を占めており、次いで人身事故(危険運転致死傷・過失運転致死傷等)の25.5%、そして道交違反(反則事件)を除く特別法犯が23.5%という割合になっています。
※令和5年版犯罪白書(https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00127.html)参照
刑法犯について
刑法犯の分け方にもいろいろありますが、捜査機関の統計上は次の6種類で分類されています。
1. 凶悪犯(殺人、放火、強盗、不同意性交等などの罪)
2. 粗暴犯(傷害、暴行、恐喝、脅迫などの罪)
3. 窃盗犯(窃盗の罪)
4. 知能犯(横領、詐欺、汚職などの罪)
5. 風俗犯(賭博、不同意わいせつなどの罪)
6. その他(住居侵入、器物損壊、公務執行妨害などの罪)
このうち特に発生割合の高いものを下表にまとめます。
特に多い刑法犯の種類 | |
---|---|
窃盗 |
・他人の財産を盗み取った場合に成立する罪。 ・刑法犯全体の7割近くを占める。 ・刑罰は「10年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」。 |
器物損壊 |
・他人の物を壊した場合に成立する罪(公文書、私文書、建物に関する損壊については別の罪が成立する)。 ・刑法犯全体の1割近くを占める。 ・刑罰は「3年以下の拘禁刑」または「30万円以下の罰金」もしくは「科料」。 |
詐欺 |
・他人を騙して財産を交付させた場合に成立する罪。 ・窃盗とは違い、無理やり奪うのではなく相手方に交付させるという特徴を持つ。 ・刑罰は「10年以下の拘禁刑」。 |
暴行 |
・身体に対する危害、例えば殴る蹴るなどの行為が合った場合に成立する罪。 ・身体への直接的な接触がなくても、例えば服を強く引っ張ったり胸ぐらを掴んだり、室内で凶器を振り回したり水をかけたりする行為でも成立し得る。 ・刑罰は「2年以下の拘禁刑」もしくは「30万円以下の罰金」、または「拘留」もしくは「科料」。 |
傷害 |
・人に怪我をさせた場合に成立する罪。 ・暴行により怪我を負わなければ暴行罪、結果的に怪我をしたときは傷害罪が成立する。さらに、暴行によって死亡させたときは傷害致死という別の罪が成立する。 ・刑罰は「15年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」。 |
横領 |
・自分が預かっていたり管理したりしている他人の物を、勝手に自分の物にした場合に成立する罪。 ・業務に基づいて預かっている物については業務上横領罪が成立する。 ・刑罰は「5年以下の拘禁刑」。 |
住居侵入 |
・他人の家やその敷地内に勝手に入った場合に成立する罪。 ・いったん上がった住居や敷地内から、退去するよう求められたのにこれに応じないときにも同罪が成立する。 ・刑罰は「3年以下の拘禁刑」または「10万円以下の罰金」。 |
不同意わいせつ |
・暴行や脅迫、アルコールの摂取、その他所定の事由により、同意しない意思の形成や表明もしくはそれを困難な状態にさせ、またはその状態を利用して、わいせつな行為をはたらいた場合に成立する罪。 ・2023年7月の法改正を受け「強制わいせつ」から名称が変更され、成立条件も広がった。 ・刑罰は「6ヶ月以上10年以下の拘禁刑」。 |
危険運転致死傷・過失運転致死傷等について
交通事故の件数は減少傾向にありますが、それでも全国で毎日のように交通事故は発生しています。ニュースでも取り上げられているように、飲酒運転などの悪質で危険な運転による事故も発生しており、このような行為に厳正に対処するため自動車運転死傷処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)が平成26年に制定されました。
同法では「危険運転致死傷罪」や「過失運転致死傷罪」などを規定しています。
危険運転致死傷罪について |
次の行為によって人を負傷または死亡させた場合に成立。負傷の場合は「15年以下の拘禁刑」、死亡の場合は「1年以上の有期拘禁刑」の刑罰が科される。 ・飲酒運転 ・制御困難なほどのスピードで運転した ・無免許であるなど運転技術なく運転した ・人の通行を妨害する目的での運転 ・危険な速度で信号無視をした ・危険な速度で高速道路を逆走した など |
---|---|
飲酒や薬物、一定の病気の影響で正常な運転ができないおそれがあるにもかかわらず運転を行い、事故を起こした場合に成立。負傷の場合は「12年以下の拘禁刑」、死亡の場合は「15年以下の拘禁刑」の刑罰が科される。 | |
過失運転致死傷罪等について | 運転中の不注意により人を死傷させた場合に成立。「7年以下の拘禁刑」または「100万円以下の罰金」の刑罰が科される。 |
飲酒や薬物の影響で死傷事故を起こし、次のような行為により原因の発覚を免れようとした場合に成立。「12年以下の拘禁刑」の刑罰が科される。 ・逃走してアルコールや薬物が抜けるのを待つ ・事故後にさらに飲酒をする ・大量に水を飲む など |
その他特別法犯について
上記自動車運転死傷処罰法に基づく罪や刑法犯以外の特別法犯のうち、大半は道路交通法違反です。これだけで7割超を占めており、身近な法令違反ということができるでしょう。
その他の刑法犯について多い順に並べると次のようになります。
- 覚醒剤取締法違反(覚醒剤の製造や所持、使用を規制する法律)
- 大麻取締法違反(大麻の栽培や所持、使用を規制する法律)
- 軽犯罪法違反(騒音やのぞき、つきまといなどの比較的軽微な犯罪行為を規制する法律)
- 廃棄物処理法違反(廃棄物の適正な処理について定めた法律)
- 銃刀法違反(銃や刀剣類の所持などを規制する法律)
- 入管法違反(日本への入国や出国について定めた法律)
- 児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童の買春や児童ポルノの製造、所持などを規制する法律)
- 犯罪収益移転防止法違反(犯罪により得た利益の移転を防ぐための法律)
- 自動車損害賠償保障法違反(自動車事故の被害者救済を目的とする法律)
近年注視されている刑事事件
近年増加傾向にあるなど、特に注目を集めている事件についていくつか紹介していきます。
参照:警察庁「令和5年の犯罪情勢」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r5_report.pdf
児童虐待について
1つは「児童虐待」に関する事件です。心理的虐待・ネグレクト・性的虐待・身体的虐待などがあり、児童相談所への通告や検挙件数は平成26年から令和5年にかけて増加し続けています(令和5年における通告児童数は12万人超。検挙件数は2,000件超。)。
通告で特に多いのは心理的虐待で、全体の7割超を占めています。他方で検挙される割合が高いのは身体的虐待で全体の8割近くを占めています。
DVについて
配偶者からの暴力に関する相談も増加傾向にあります。
令和5年においては相談件数が8万件を超えており、平成26年から増加を続けています。検挙件数に関しては平成26年からおおむね8,000件程度で大きな変化はありませんが、相談件数に対して高い水準で推移しているという特徴があります。
サイバー犯罪について
近年、サイバー犯罪は世界中で多く発生しており、サイバー空間での脅威が深刻化しています。
国内の個人が特に注意したいのが「銀行への不正送金事犯」です。年間で数千件発生しており、被害総額は80億円超。被害者の大半は個人で、40代~60代の方だけで6割を占めていることがわかっています。
手口は多種多様ですが、特に多いのは銀行の公式HPを装って偽のログインサイトに誘導する、フィッシングによるものです。
ほかには「ランサムウェア(データを使用不可にして身代金を要求するプログラム)」や「DDoS攻撃(大量のデータを送り付け、サービスを停止させる攻撃)」などが割合多く発生しています。
特殊詐欺について
一般的な「詐欺」は、人が直接会って巧みに金品を騙し取る行為を指していますが、対面なく不特定多数に不正行為をはたらき金品を騙し取る行為を「特殊詐欺」と呼んでいます。
※オレオレ詐欺や架空請求詐欺などが特殊詐欺の代表例。
犯行手口で近年多いのは「架空料金請求詐欺」で全体の3割近く。ポップアップ表示をツールとして使うケースが多く、年代や性別を問わず被害が起こっています。ほかの手口の場合は高齢女性が被害者となるケースが多く、その発端は犯人からの電話であるともわかっています。
薬物犯罪について
薬物犯罪については主に「大麻取締法違反」と「覚醒剤取締法違反」があります。
大麻取締法違反に関しては平成26年から大きく増加しており、検挙件数は5,000件を超えています。年代別だと、30代以上で停滞または減少傾向にある一方、20代や20歳未満の検挙件数が大きく増加していることがわかっています。
覚醒剤取締法違反については長らく検挙件数が減少傾向にありますが、それでも全体の検挙件数は6,000件を超えています。
危険運転について
危険運転に関する事件については特に世間の関心が高まっている分野だといえるでしょう。
法令が新たに整備されるなど、取り締まりも年々厳しくなってきています。
なお、過失運転致死傷等については長らく減少傾向にあり、現在の検挙件数は30万件を下回っています。しかしながら危険運転致死傷については増加の傾向を示しており、令和4年においては700件以上の検挙件数を記録しています。
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