雇用契約書と労働条件通知書の違い|作成の必要性や記載事項などを比較
従業員を雇うときは、従業員になろうとしている方と雇用契約を交わします。その際、雇用契約書と労働条件通知書、あるいはそれらを兼用した書面を作成するのが一般的です。
雇用契約書と労働条件通知書の2つの書面が出てくるため、「この2つは何の違いがあるのだろうか?」「2つも必要なのか?」など疑問を抱くこともあるかもしれません。当記事ではこの疑問が解消されるよう、作成の必要性や記載事項の違いなど、詳しいルールについて解説をしていきます。
「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違い
雇用契約書は、会社などの使用者と従業員となる労働者との間で、労働者が労働し、使用者がそれに対して賃金を支払うことについての約束を交わす際に作成・交付する書面のことです。その他一般の契約書同様、当事者間で取り決めたルールを取りまとめて書面化したものとなります。
一方、労働条件通知書とは、使用者側から労働者に対して労働条件を通知する書面のことです。契約書のように当事者間の合意に基づいて作成するものではなく、使用者から労働者に対して一方的に労働条件を知らせるために作成するものとなります。
雇用契約書は必須ではない
雇用契約書は雇用契約成立に必須のものではありませんので、使用者と労働者の口頭の合意があれば、有効に契約は成立します。
ただし、雇用契約上のトラブルを回避するという意味では契約書を作っておいた方が望ましいです。契約書を作成していない場合、合意した労働条件について、一方が反故にしてしまったとしても、契約違反だと主張することが難しくなってしまいます。
他方で、契約書を作っておけば、当事者間でどのようなルールを定めたのかが客観的に明らかになりますので、トラブルを未然に防止できますし、もし、トラブルになっても契約書がトラブルの解決の基準となります。
労働条件通知書は必須
使用者が労働者を雇い入れる際には、法令により労働条件通知書を交付することが義務付けられています。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用:e-Gov法令検索 労働基準法第15条第1項
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
そのため雇用契約書とは違って労働条件通知書は必須のものです。 雇用契約書の作成の有無にかかわらず、会社側は必ず従業員となる方に対してこれを交付しないといけないことを覚えておきましょう。この義務に反したとき、30万円の罰金に科される可能性があります。 また、正社員に限らず、契約社員やアルバイトなどに非正規雇用労働者に対しても交付する必要があります。 また当然ですが、交付する労働条件通知書の中身は実態に即したものでなくてはなりません。「法令上の義務だから形だけでも交付をしておこう。」などと事実と異なる条件を記載してこれを交付し、実際には違法な労働環境に働かせていた場合も罰則の対象となります。
雇用契約書について
雇用契約書についてより詳しく見ていきます。
契約書の記載例
雇用契約書は作成自体任意に行うものですので記載方法についても自由ですが、作成をする場合は以下の点に留意しておきましょう。
- 当事者の特定
- → 例:「〇〇株式会社(以下「甲」という。)及び〇〇(以下「乙」という。)は、・・・」
- 雇用契約である旨の明記
- → 例:「乙は、甲に使用されて労働すること、甲はこれに対する賃金を支払うことに合意する。」
- 労働条件の記載
- → 例:「賃金は・・・」「労働時間は・・・」、あるいは「労働条件については、労働条件通知書および就業規則に定めるところによる。」などと記載。
- 双方の合意があったことの記載
- → 例:「甲と乙は、以上のとおり合意し・・・」
- 作成年月日の記載
- 各当事者の署名押印
契約の成立要件を考えると、誰と誰が合意をしたのか、確かにその本人による意思が反映されているのか、という点が重要といえます。そのため当事者を特定することに加え、当人による署名押印をしておきましょう。
労働条件通知書について
続いて、労働条件通知書について詳しく見ていきます。
必ず通知しないといけない事項
労働条件通知書に記載し、従業員となる方に必ず明示しないといけない事項(絶対的明示事項)があります。以下に掲げる事項については絶対的明示事項となっておりますので記載漏れのないよう注意してください。なお、⑦~⑩の事項については2024年4月1日からの改正法により適用される絶対的明示事項です。これまでとはルールも変わっていますので気を付ける必要があります。
- ①契約期間
- ②有期労働契約における更新基準
- ③就業場所と従事すべき業務
- ④労働時間について
・始業・終業の時刻
・所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間・休日・休暇
- ⑤賃金について
・賃金(退職手当や臨時の賃金は除く)の決定・計算・支払いの方法
賃金の締切
・支払いの時期
・昇給の有無
- ⑥退職に関する事項(解雇事由も含む)
- ⑦就業場所と従事すべき業務の変更の範囲
- ⑧更新上限の有無と内容
- ⑨無期転換申込機会
- ⑩無期転換後の労働条件
無効とならないよう通知を要する事項
上に挙げた絶対的明示事項とは異なり記載義務はありませんが、ルールとして定めるのなら記載しないといけない事項(相対的明示事項)もあります。 もし、以下に掲げる制度・仕組みを設ける場合は労働条件通知書に必ず記載してください。
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
なお、絶対的明示事項や相対的明示事項について就業規則に定めているときは、通知書内にそのすべてを事細かに記載しなくてもかまいません。適用箇所を分かりやすく示した上で就業規則を交付すれば、労働条件通知書に代えることができます。
どちらも電子化は可能
雇用契約書及び労働条件通知書は、いずれも電子化することが認められています。 電子化により押印などの手間がなくなり、文書の送付などの手間もなくなります。 ペーパーレス化も進み、印刷や送付等にかかるコストもカットすることができます。保管スペースの問題や紛失等のリスクも回避しやすくなり、さらにアクセス制限を設けるなどすればセキュリティ面も強化できることなど、さまざまな恩恵が得られるでしょう。 ただしいくつか注意点もあります。
法令上の保存義務に留意
労働条件に関することなどを規律した労働基準法では、雇用に係る各種重要書類について3年間の保存義務を定めています。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。
第百四十三条 第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
引用:e-Gov法令検索 労働基準法第109条・第143条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
そのため雇用契約書等を作成したときは適切に保管しましょう。 また、電子契約書については電子帳簿保存法で定められた保存要件にも留意しないといけません。契約書の電子ファイルにタイムスタンプを付与することや、訂正や削除に関して記録が残るようにすること、システム上で契約書データが検索できるようにもしておきましょう。
労働条件通知書の場合は労働者の希望が必要
労働条件通知書を電子データ化し、PDFファイル等で交付することも不可能ではありませんが、「労働者側による希望が必要」という点にご留意ください。
④ 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信・・・の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
引用:e-Gov法令検索 労働基準法施行規則第5条第4項
https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
※「法」とは労働基準法のこと。
※「第十五条第一項」とは上記の労働条件通知書の交付義務について規定した条文のこと。
労働条件通知書の電子化の方法については、細かくは制限されていませんが、メールにPDFファイルを添付するなどの方法が無難といえるでしょう。
契約更新時にも各文書を作成しておくべき
有期雇用をする場合は、一定期間おきに契約更新について考える時期がやってきます。また、一般的な正社員のように無期雇用をする場合でも、契約内容を変更することがあるかもしれません。
その場合にもできれば契約書を作成しておくべきで、労働条件通知書については作成をしないといけません。もちろん、その前提として「新しい労働条件に関する従業員との協議」や「会社と従業員の合意」も欠かせません。
特に賃金の減額などその他従業員側に不利な変更をしようとするのなら、そのことについてしっかりと説明をすること、そして変更内容に合理性があることも求められます。
また、有期雇用労働者に関しては更新を行わない可能性もありますので、契約期間が満了する30日以上前には協議を始めておくべきです。そして更新を行う場合でも、契約期間・更新の有無・更新の判断基準など、各種労働条件についてあらためて通知を行います。
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