遺言書がないときの相続手続|トラブルを防ぐポイントを解説

遺言書がないときの相続手続|トラブルを防ぐポイントを解説

遺言書がない場合の相続手続では相続人間の合意形成が重要となり、手続が複雑化し、トラブル発生などの問題も起こりやすくなってしまいます。
具体的にどのような点に注意する必要があるのか、当記事では遺言書が作成されていないときの相続手続の流れ、遺産分割協議の進め方、その他トラブルを防ぐために押さえておきたい注意点などを解説していきます。

遺言書がないときの相続の注意点

遺言書がない場合の相続は、民法で定められた相続の規定に基づいて進めるのが基本となります。法律に基づくと、配偶者と子どもが第一順位の相続人となり、子どもがいない場合は配偶者と被相続人の親が、親や祖父母などもいない場合は配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。

ただ、遺言書がない場合には次に紹介するいくつかのリスクがありますのでご注意ください。相続開始後できるだけ早い段階で弁護士や税理士などの専門家に相談することが重要で、専門家の助言を得ることで法的手続の適切な進め方を把握し、円滑かつ安全に相続手続を進めることができます。

遺言書がないリスク

遺言書がない場合のリスクは次のように分けることができます。

  • 遺産分割協議の長期化
    • 相続人全員の合意が必要となるため、話し合いに時間がかかってしまう。
  • 相続人間の対立
    • 遺産の分配方法や評価額について意見が分かれやすい。
    • 感情的な対立に発展し、家族関係が悪化するケースもある。
  • 相続開始後の事情変更への対応
    • 相続開始から遺産分割までの間に相続人の状況が変化する可能性もある。
    • 新たな相続人が現れたり相続人が亡くなったりするなど、予期せぬ事態への対応が必要。

これらのリスクを軽減するためには、相続人間で早期に話し合いの場を設けることや、専門家の助言を得ながら進めることが有効です。

法定相続人の確認が大事

遺言書がない場合、遺産分割協議をするためにも法定相続人を正確に把握することがとても重要です。

そして「誰が法定相続人になるのか」という点に関しては法律の規定に従わなければなりません。相続人の話し合いによりその範囲を変えることはできませんし、仮に遺言書で相続人の範囲を広げる旨の記載がなされていてもその部分に関しては無効となります。

なお、法定相続人は次のように定まります。

順位 共同相続人の組み合わせ
第1順位 ・子
・子がすでに亡くなっているときはその人物の子が代襲相続できる
第2順位 ・親
・親がすでに亡くなっているときはその人物の親が相続人になれる
第3順位 ・兄弟姉妹
・兄弟姉妹がすでに亡くなっているときはその人物の子が代襲相続できる

「誰が被相続人の子か」といった確認は、戸籍謄本等を取得し、その情報を頼りに進めていきましょう。第2順位、第3順位に該当する方が法定相続人になるときは収集すべき戸籍謄本が多くなりますし、調査が複雑になってくるため専門家も積極的にご利用ください。

相続手続の全体の流れ

遺産相続は、被相続人の死亡から相続の完了まで、複数の手続経て進行します。基本的な流れは次のとおりです。

1. 死亡の確認と死亡届の提出
2. 死亡に伴う各種行政手続(年金・健康保険など)
3. 相続人の確定と連絡
4. 遺産の調査と評価
5. 遺産分割協議の実施
6. 各種名義変更手続
7. 相続税の申告と納付(必要な場合)

期限が設けられている手続もいくつかあります。例えば「死亡届」だと死亡を知った日から7日以内、「相続放棄の申述」をするなら相続開始を知った日から3ヶ月以内、「相続税の申告と納付」が必要なら相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に対応しないといけません。

各段階での注意点としては、相続人全員の納得が得られるようしっかりとコミュニケーションを取ること、必要に応じて専門家のサポートを受けること、そして法定期限を厳守することが挙げられます。
特に遺言書がない場合は、相続人間の意思疎通と合意形成が円滑な相続手続のための鍵となります。

死亡直後にすべきこと

被相続人が亡くなった直後の対応としては次の行為が挙げられます。

  • 1. 死亡届の提出
    • 市区町村の役所に提出。
    • 医師の死亡診断書または死体検案書が必要。
    • 同時に火葬許可証の発行を受ける。
  • 2. 預貯金口座の死亡の届出
    • 銀行に死亡の連絡をすると、預貯金口座が凍結される。
    • 凍結された場合、解除には相続人全員の同意が必要。
    • 葬儀費用など、緊急に必要な費用に関しては相続人全員の同意がなくても一定額まで引き出せるケースがある。
  • 3. 相続人への連絡と初期対応
    • 判明している相続人全員に連絡。
    • 葬儀の日程や今後の進め方について話し合う。
  • 4. 遺言書の確認
    • 遺言書が作成されていないか、自宅や公証役場、法務局、銀行の貸金庫を調べる。
    • 遺言書がある場合は家庭裁判所で検認を行う(公証役場、法務局以外で見つかった場合)。

相続手続の全体像を把握し、今後の進め方について相続人間で共通認識を持つよう努めましょう。

遺産調査のポイント

遺言書がない場合など、財産目録が被相続人により作られていないときは、相続人自身で財産の全容を調査しないといけません。

主な財産の種類と調査の進め方を以下にまとめました。

主な財産 調査の基本
不動産 ・法務局で登記事項証明書を取得。
・固定資産税評価証明書を市区町村から入手。
・名寄帳を市区町村から入手。
預貯金・有価証券 ・被相続人の通帳や証券会社の取引報告書、銀行からの手紙を確認。
・必要に応じて金融機関に残高証明書を請求。
生命保険 ・保険証券を確認。
・保険会社に契約内容と受取人を確認。
・通帳からの引き落としがないかどうかを確認。
事業用資産(個人事業主の場合) ・帳簿や決算書を確認。
・必要に応じて専門家に評価を依頼。

また、「貸金庫の中身」や「デジタル資産(暗号資産など)」「知的財産権(著作権、特許権など)」などは見落としやすいため要注意です。

調査にあたっては、被相続人の生前の生活状況や職業を考慮しながら、幅広い視点で行うと良いです。また、相続人全員で情報を共有し、誰がどんな作業をしているのか、透明性を確保することで後々のトラブルも防ぐことができます。

負債も要チェック

相続財産には被相続人の債務も含まれますので、次の作業にも取り組みましょう。

チェックする負債 調査の基本
金融機関からの借入金 ・被相続人名義の通帳や借用証書を確認。
・金融機関に残高証明書を請求。
取引先に対する買掛金 ・掛け取引で仕入をした際などの代金債務のこと。
・帳簿や取引先との契約書を確認。
・税理士や公認会計士に相談。
公租公課 ・未納分の支払いを求める通知書などがないか確認。
・市区町村や税務署で未納の税金がないか確認。
その他の債務 ・クレジットカードの利用残高。
・医療費や介護費用の未払い分。
・消費者金融などからの借金については、信用情報機関への問い合わせで調査できる場合がある。

特に注意が必要なのは「連帯保証」の確認です。
被相続人が他人の債務の連帯保証人になっていた場合、その債務も相続の対象となる可能性があります。そこで保証契約書や根保証契約書の有無を確認すること、金融機関や取引先に保証債務の有無を照会すること、親族や知人に聞き取りを行い保証人になっていた可能性を探ること、などに取り組みましょう。

遺産分割協議のポイント

遺言書がない場合、相続人全員の合意による遺産分割協議が必要となります。以下に、話し合いの基本的な進め方と配分の決定方法を示します。

1. 相続人全員の参加を確保する
※必ずしも全員がどの場に居合わせる必要はなく、各々から事後的にでも同意の意思表示が受けられるのであれば問題ない。
2. 遺産の全容と評価額を共有する
3. 各相続人の希望や事情を共有する
4. 法定相続分を基準に具体的な分割案を検討する
5. 合意形成に向けて調整と妥協を進める

法律で各自の取得分が決められているわけではありませんが、法定相続分は重要な目安となります。遺言書での指定がなされておらず、特別の事情がないのなら、まずは法定相続分を基準に配分していくと良いでしょう。
そのうえで各自の生活状況や将来の見通しなどを考慮して具体的な割合を決めていくと良いです。

エンディングノート等の確認

「遺言書」と銘打って作成されている文書がなくても、遺言書に求められる法定の要件を満たす文書があるときは当該文書が遺言書として有効になります。

そこで、「エンディングノート」や「ライフノート」などのタイトルが付されているときでも、押印がなされているなど厳格な方法で作られているときは弁護士にもチェックしてもらい遺言書となるかどうかを判断してもらいましょう。
仮に遺言書として成立していなくても、そこに被相続人の意思が記されているのなら、その意思を尊重した遺産分割を行うことも検討しましょう。ただし遺言書とは異なり法的拘束力はないため、相続人の一部が反対したときにまで強制することはできません。

遺産分割協議書の作成

名義変更やその他関連する相続手続では、「私がその財産を確かに取得しました。」と主張するための証拠資料を用意しなくてはなりません。
遺言書が作成されているときは「遺言書の原本」がその証拠資料となります。しかし遺言書がないのなら「遺産分割協議書の原本」が必要となります(手続によっては写しで足りる場合もあります。)。

そこで遺産分割協議を行ったのならその結果を遺産分割協議書として明確に書き記しておきましょう。この作成方法については法律で規定されていませんが、以下の情報については記載しておくことが大事です。

  • 被相続人の氏名と死亡年月日
  • 相続人全員の氏名と続柄
  • 相続財産の詳細と評価額
  • 各相続人の具体的な取得財産
  • 協議書の作成日
  • 相続人全員の署名・押印

明確かつ具体的な表現を用い、あいまいさをなくすことに留意してください。また、記載の方法が不十分であると、相続登記や預貯金の解約などの場面においてトラブルが生じる場合があります。作成に不安がある方は弁護士にご依頼ください。

協議が難しい場合の対応<

相続人間で意見が対立する可能性も十分に考えられます。このとき、感情的に対処することは避けましょう。建設的な話し合いができなくなってしまい長期にわたりトラブルが続いてしまいます。

ほかにも次のような理由で協議が難航することもあります。

  • 相続人の所在がわからない
    • 長期間連絡が取れない相続人がいるケース。
    • 相続人の住所が判明しないケース。
  • 相続人の意思確認が難しい
    • 認知症などにより判断能力が低下しているケース。
    • 未成年者や成年被後見人であるケース。

相続人の所在が判明しなかったり、認知症などにより判断能力が低下しているケースなどは、協議を行うために、不在者財産管理人や成年後見人を選任してもらうよう家庭裁判所に申立てをしなければならない場合もあり、費用や時間がさらにかかることになります。

遺産分割調停の申立て

協議による解決が困難な場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることも検討してください。

調停では、調停委員が中立的な立場から主張を聴取し、専門家としての意見も出してくれます。また、具体的な和解案も提示してくれるため、合意形成が促進されるという利点もあります。

調停から審判への移行

調停までで多くの場合は問題が解決されますが、調停でも最後には合意が必要とされるため、頑なに同意の意思を示さない相続人がいるときは調停が不成立となってしまいます。

そしてこの場合、調停から「審判」へと手続が移行します。

審判では裁判官が合理的な結論を出し、基本的にはその内容に従うこととなります。2週間以内なら「即時抗告」という手続により不服申し立てをすることもできますが、その場合でも最後の結論は裁判官により示されます。

遺言書が作成されている場合との比較

遺言書の有無によって相続手続には大きな違いが生じます。

主な相違点 遺言書がないケース 遺言書があるケース
遺産分割協議の必要性 相続人全員での協議が必要 基本的には不要
財産分配の決定方法 法定相続分を基準に相続人間で協議 被相続人の意思に基づく
手続の複雑さ 相続人間の合意形成に時間を要する可能性が高い 比較的スムーズに進行
トラブルのリスク 相続人間の意見対立によりリスクが高まる可能性がある 被相続人の意思が明確だと大きなリスクにはなりにくい
遺留分を侵害する遺言の場合には、相続人間で遺留分侵害額請求がされる場合がある

遺言書がない場合、相続人間で話し合うべき事項が増え、意見の相違から揉める可能性が高くなります。遺言書が作成されていても、相続財産のすべてに対する指定がなされていなければその言及されていない部分に対して協議が必要となりますが、相対的にリスクは低くなります。

そのため遺言書がない場合には早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで相続手続をスムーズに進め、家族間の関係を良好に保ちながら、公平で適切な遺産分割を実現することができるでしょう。

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